胃瘻の何が問題なのか、考えてみよう!

どうも、ナースあさみ(@asami300765)です。

 

なんだか、このTweetがめちゃめちゃ伸びました。

せっかくの機会なので胃瘻の問題点について、ナースあさみが思うところを残しておきます。

最初に言っておきますが、胃瘻は決して悪者ではありません。
これを念頭に置いて、読み進めてもらえると嬉しいです。

 

そもそも、胃瘻とは?

胃瘻とは、お腹と胃に通してあるボタンチューブのようなもの。
これがあると、点滴のように栄養パックとチューブを胃瘻に繋ぎ、直接胃の中に栄養剤を流し込むことができます。


胃瘻から栄養剤を流してるイラスト
いらすとや、マジで神

胃瘻の実際のビジュアルが気になる方はこちらからどうぞ。

これを埋め込む方法は手術という方法もありますが、胃カメラのような感じで内視鏡的に行うことが多いです。
数時間で処置が終わり、トラブルがなければ1週間ほどで退院できます。
手術よりは簡単ですし、患者さんへの負荷(痛みや入院期間)も最小限で済みます。

この処置名を略してPEG(ペグ)と呼ぶので、スタッフ間では胃瘻そのものをPEGと呼ぶことも少なくありません。

 

なんで胃に直接、栄養剤を流し込まないといけないの?

と、思う人がいるでしょうがその理由は明確。

点滴よりも胃から下にある消化管を介して栄養分を消化・吸収したほうが、はるかに効率が良く吸収能もいいからです。
ほんと、私たちの消化管は良くできているんです。ファービュラス!

ちょっと難しい言葉を使いますね。

具合が悪くてご飯が食べれない、手術のあとでずっと点滴みたいな状態が続くと、バクテリアルトランスロケーションといって普段消化・吸収で頑張って働いている菌たちが暴走して、消化管の外(腹腔内というお腹の中)へ飛び出してしまうことがあります。

お腹の中や血液の中は、基本的に無菌
なのに、そこへ菌がやってくると命を脅かすほどの感染症を発症してしまうことになります。

昔は、点滴 is 神!みたいな時代もありましたが、近年の研究によって

出来るだけ消化管を使ったほうが、患者さんの回復っぷりが良い

ということが周知されるようになり、今にいたっています。

胃瘻が始まった経緯

これを読んでいる皆さんも、胃瘻という言葉を聞くと

あなた

高齢者の問題…?

と思う人もいるでしょうが、胃瘻という処置が始まったきっかけは小児科からでした。

先天性食道閉鎖症や、胃の入り口である噴門という部分に奇形がありうまくミルクや離乳食が流れていかない子供たちのために開発された処置だったのです。

では、なぜこれが広く高齢者に適応されるようになったのでしょう。

胃瘻が広まるきっかけなった病気

ちょっと話が飛躍しますが、日本人の死因は上から

  1. がん
  2. 心疾患

そして、次に肺炎と続きます。
(H28年度、厚生省統計より

最近の統計では、脳血管疾患、肺炎、老衰がしのぎを削っており、3位〜5位はかなり変動がありますが、その実数はそんなに変わりません。

 

肺炎、その正体は?

肺炎って感染症とおもわれるかもしれませんが、その実態は老化です。
ここ、詳しく説明していきますね。

肺炎で亡くなる人の多くが、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)といって食べものや唾液をうまく飲み込めず、気管に入ってしまうことで肺炎になり、重症化してしまいます。

あなた

でも、そういうときって、むせるよね?

と、思いますよね。
それが、むせないんです。

本来ならば、気管に入ると「そこは違うよ〜!」と神経や筋肉が反応してむせるという反応が起こるのですが、神経も筋肉も年とともに老いていきます。
しかも、ここは筋トレで鍛えやすい骨格筋と違い、視覚的に衰えを感じにくい部分です。

女性も男性も、ちゃんと飲み込めたかどうかを確認するには、喉仏が2横指分(指を2本横に並べたくらい)上に動くことで見極めることができます。

飲み込みが悪い高齢者の人は、なかなかこれがうまくいきません。
喉仏が行ったり来たりを繰り返し、結局上がりきらない人もいます。

仮に、うっかり気管に入ってしまったとしても、神経も筋肉の反応も鈍くなっているので「むせ」が起こらない。

そうすると、本来は無菌状態であるはずの気管支や肺に、菌だらけの食べものや唾液が流れ込み、肺炎になってしまうというわけなんです。

これが、誤嚥性肺炎の仕組み。

蛇足になりますが、高齢者の中には不顕性肺炎(ふけんせいはいえん)といって、発熱や咳、痰が出るなどの症状が出ない肺炎になってしまう人もいます。症状が出るほどの体力と栄養がないんです。

この不顕性肺炎と誤嚥性肺炎のタブルパンチをくらうと、そうとう救命が難しいです…

 

肺炎の治療に、胃瘻が関係する理由

治療は、抗生物質を点滴で投与が鉄板ですが、いずれ食べものを食べられなくなる日がきます。
嚥下が不可となった時です。

これは、認知症の進行によって飲み込んで!と言っても、飲み込めない場合も含みます。
点滴だって永遠に続けられる処置ではありません。

医者

点滴だって限界がある。
かといって、この嚥下機能(飲み込みっぷり)で食事を摂らせるわけにはいかない…
あ、そうだ!!

そう、ここで登場するのが胃瘻です。

嚥下を回避しつつ、胃から下の消化管を利用できます。
点滴と異なり、半永久的に栄養を投与することが可能なんです。

そして、ここが最大のポイントなのですが

医療従事者じゃなくても、身内であれば在宅で管理できるんです。

ここでは簡単に説明しますが、胃瘻の管理は練習すれば医療従事者でなくても可能です。
点滴のように消毒しなくていいですし、仮に栄養剤を早く投与してしまってもお腹を壊すくらい。
起こりうる大きなリスクといえば、PEGが抜けてしまうことくらいでしょうか。

しかし、PEGのリンクを見てもらえるとわかるのですが、うっかり抜けてしまうほどヤワな仕組みではありません。
認知症などで、無理やり引き抜こうとしない限り、簡単に抜けないようになっています。

仮に抜けてしまったとしても、胃カメラでまた再挿入できます。

医療費を抑制したい国としては、入院して点滴するならば出来るだけ在宅で療養してもらいたい。
でも、自宅で点滴などの管理は厳しいだろう、ならば胃瘻だ!というわけなんです。

つまり

・老化による誤嚥性肺炎が増大したこと
・高齢者の劇的な増加によって、病院や施設などの受け皿が足りなくなり、在宅でも可能な処置を

という理由で、胃瘻が爆発的に認知されるようになったんです。

特別養護老人ホームの本音

もうひとつ。

胃瘻が爆発的に増えた理由があります。

社会保障を説明すると10万文字くらいになってしまうのでやめますが、日本で終身的に医療と介護を受けられる最高な場所は特別養護老人ホーム、通称:特養(とくよう)と言えるでしょう。

ですが、ここも定員は常に満員。
ちなみに、この前入所予約をした患者さんの順番は255番でした。
厚生省は順番よりも施設への入所の優先度で決めていると公表していますが、ほんとどうかはわかりません…

ものすごく極端な話をすると、今いる人や順番待ちの人が召されない限り、入居はほぼ困難です。
平成2年入所の利用者さん(95歳)とか、ごろごろいます。

そして、ここへの入居条件のひとつに

経口摂取(口からご飯を食べること)ができない人は胃瘻増設が必須

があることがほとんどなんです。

どういうことなのか、説明しますね。

特養のコスト問題

特養にも医師や看護師はいますが、本当に最低限の人材しか配置されていません。
特養の主な目的は介護であって、治療ではないんです。

そのため、いつもいるスタッフは介護福祉士がほとんど。
彼らは介護が主たる業務なので、点滴の管理や急変の対応は原則できません。

しかし、在宅でも管理可能な胃瘻なら介助することが可能なんです。
胃瘻が推奨される理由のひとつです。

 

それから。

手厚い介護があれば嚥下が可能な患者さんって、実はたくさんいます。

・ゆっくり食べさせる
・高カロリーのゼリーや栄養補助食品を摂取する
・一口大にする
・きざんでとろみをつける
・ソフト食(噛まずに飲み込めるような食事)なら食べられる

のような。

でも現実問題、そこまでのリソースを割くことはできません。
だって、お金がかかることなのに、お金が足りないから。

食事形態を個別対応させるには、栄養士や管理栄養士をもっと配置させないといけない。
ゆっくり食べさせるには介護福祉士やヘルパーさんをもっと配置しないといけない。
高カロリーのゼリーや栄養補助食品は、価格高い。

それならば、胃瘻からの栄養投与に統一したほうが、効率よく、そして比較的安価に利用者さんを管理できます。

患者さんや栄養剤の種類にもよりますが、1日3回、2時間近くかけて栄養剤を投与します。
チューブを繋ぐ、速さを確認するなどの業務はありますが、その間は他の業務・ケアができるんです。

 

もし、口から食べさせるとなると…

認知症があって嚥下機能もあやしい高齢者に、松屋の牛丼くらいの食事を食べさせるとなると、私だったら15分はかかると思います。
これが、10人いたら1時間以上はかかるでしょう。
これが1日3回です。

ちょっと現実的に難しい、というのが現場の本音だと思います。

 

あなたの家族が、特養に入所していたら…?

そして、ここからは自分の家族が特養に入所してると思ってくださいね。

介護福祉士は、介護のプロです。
でも、プロだって毎日限界に近い状態で業務にあたっています。

どんなに注意して食事介助していても、誤嚥性肺炎を誘発してしまうようなきっかけを招くことあるでしょう。

そういう時、家族であるあなたはその職員を許せますか?
もっと、きちんと介護していれば、肺炎にならずに済んだのにって思いませんか?

食事、そして飲み込むことって患者本人の問題が半分以上なんですが、患者さんもご家族もなかなかそうは割り切れません。
むしろ、特養が、職員が、ちゃんと介護してくれなかったからだ!と思うのが普通です。

 

しかし、これが胃瘻なら。

特養の場合、入所の最低条件は要介護度3以上。

言い方がきつく感じるかもしれませんが、要介護3って自分で胃瘻の管理ができるような人は少ないです。
そして、そういう身体の動きができる人も、あんまり入所してきません。
要介護度3は、1人で起き上がれる程度の介護度だから。

だから、何かトラブルがあっても、ほとんどが特養のせいになります。
医療処置におけるトラブルが、ほとんど医療従事者のせい、なのと似てるかな。

(もちろん、認知症やアルコール中毒のせいで患者からの協力が得られない、ってことは多々あります…)

仮に、誤嚥性肺炎になったとしたら

・職員がきちんと胃瘻の管理をしていなかったからだ
・適切なタイミングで吸引(鼻や口から気管にチューブを入れて痰を除去すること)しなかったからだ

などとなります。

だから、胃瘻が広まった

長々と説明してきましたが、胃瘻が広まった経緯や現場での様子、少しでも伝わったでしょうか?

そして、ここは念押ししたいのですが

胃瘻=悪者ではありません。

そして、特養で胃瘻処置をしている人を非難するつもりもありません。
あの時、あの判断が、その患者さんや家族にとってはベターだったはずです。

ただ、同時にこんなはずじゃなかった…
と、思っているご家族や関係者の人もいるはずです。

「胃瘻をしない」という選択肢があることを知らなかったという人もいるでしょうし、そうすることで身内から「親を見殺しにするつもりか」と人殺し扱いされるのを恐れた人もいることでしょう。

(私は実際に、言われている瞬間を見たことがあります…とても悲しかったです…)

 

しかし、時代は大きく動いています。

治療を進めない・選択しないことは、患者さんを殺すことではありません。
患者さんが最期まで自分らしくあるための、尊厳を守ることと同義だと私は思っています。

日本では、歴史や倫理的観点からも積極的安楽死が認められることは今後100年絶対ないと思いますが、治療を進めない・選択しないという手段は残されています。

どうか、健康なうちにたくさん考えてください。
そして、家族や自分の大切な人とそれを共有してください。

どの問題もそうですが、遠いどこかの国でおこっていることではありません。

自分の家族が
大切な人が
パートナーが
そして、自分が胃瘻と共に生きることを迫られる場面がくるかもしれません。

あなたの人生は、私たち医療従事者が責任を取るものでも、保証するものでもありません。

自分で考えて、決めて、行動しながら歩んでいくものだと思いますし
私たち医療従事者は、そういう人の選択を専門性をもって支えることが使命だと強く思っています。

 

ではまた。

 

参考文献

 

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